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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)3087号 判決 1961年1月20日

原告 有限会社興立商会

被告 大山栄田

主文

被告は原告に対し金四八万八、五五〇円およびこれに対する昭和二九年三月二〇日以降完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  原告訴訟代理人は主文同旨の判決と仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のように述べた。

(一)  被告は自己が振出を受けた左記の約束手形七通を支払拒絶証書作成の義務を免除して原告に裏書譲渡し、原告はこれらの手形の所持人である。

(イ)  金額五〇、〇〇〇円、支払期日昭和二八年一二月四日、支払地東京都新宿区支払場所東京都民銀行新宿支店、振出地東京都渋谷区、振出日昭和二八年九月二六日、振出人大二物産株式会社

(ロ)  金額五〇、〇〇〇円、支払期日昭和二八年一二月一三日、その他の記載事項(イ)に同じ、

(ハ)  金額六五、六〇〇円、支払期日昭和二九年一月一七日、振出日同二八年一〇月二六日その他の記載事項(イ)に同じ、

(ニ)  金額五四、五〇〇円、支払期日昭和二九年一月二四日、振出日昭和二八年一一月五日、その他の記載事項(イ)に同じ、

(ホ)  金額五四、〇〇〇円、支払期日昭和二九年一月二六日、その他の記載事項(イ)に同じ、

(ヘ)  金額一〇〇、〇〇〇円、支払期日昭和二九年二月二日、支払地振出地とも東京都千代田区、支払場所株式会社三和銀行神田支店振出日昭和二八年一一月一九日、振出人片倉興業株式会社

(ト)  金額一一四、四五〇円、支払期日昭和二九年二月一七日、支払地東京都港区、支払場所芝信用金庫本店、その他の記載事項(ヘ)に同じ、

(二)  原告は右約束手形をその支払呈示期間内にそれぞれの支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶された。

(三)  よつて右各約束手形の裏書人である被告に対し、各手形金合計四八八、五五〇円及び各約束手形の満期後である昭和二九年三月二〇日以降完済にいたるまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。

(四)  被告の抗弁事実を否認する。被告より昭和二九年一二月三一日四万円の支払を受けた事実は認めるが本件手形金の支払として受領したものではない。

(五)  証拠として甲第一ないし第七号証を提出し、原告会社清算人富永桂太郎尋問の結果を援用した。

二  被告訴訟代理人は本案前の抗弁として原告は昭和三二年三月二二日本訴の取下書を提出し、被告は同年八月一九日右訴の取下に不同意の書面を提出したが、同年一〇月二四日右不同意の意思表示を撤回して右取下に同意したので、同日原告の本訴取下は効力を発生し本訴の訴訟係属は終了したものである。本案につき「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として原告の主張事実は全部認め抗弁として次のように述べた。

(一)  原告請求原因第一項記載の(イ)ないし(ホ)の手形について、被告は昭和二九年一二月三一日四万円を、右手形元金の弁済として原告に支払いその際原告は被告に対し右手形についての支払債務残額について免除した。

(二)  原告請求原因第一項記載の(ヘ)(ト)の手形については、昭和三〇年三月頃原告被告及び振出人訴外片倉興業株式会社三者の間で、訴外会社は平和相互銀行浅草支店に月額二万円積立期間四〇ケ月の積立貯金を開始し、右の掛金を六ケ月間継続した後、四〇万円を右銀行から借入れ右手形の支払に充てること、訴外会社において掛金を開始したときは、原告は被告に対する右手形債務を免除する、訴外会社は右掛金通帳を原告に預託し前記借入金をする際は被告にもこれを通知することという合意が成立して、右会社は直ちに掛金を開始した。従つて被告は右手形金の支払をする義務がない。

証拠として証人武田徹次、被告本人大山栄田の供述を援用し、甲第一ないし第七号証の成立を認めた。

理由

一、本案前の抗弁について

被告主張の通りその主張の日に原告より訴の取下書が提出されたが、被告は主張の日に右取下に不同意の意思表示をしたので右原告の訴の取下は無効となつたものというべく其の後被告が右不同意の意思表示を撤回してもさきの取下がその効力を生ずるものということはできないから被告の主張は理由がない。

二、本案について

原告主張の事実は全部当事者間に争いがない。そして、そして、被告の抗弁事実について、証人武田徹次ならびに被告本人の各供述の一部に、これに沿うような部分が存在するが、右供述部分は、同人らの他の供述部分と原告代表者の供述に照して、たやすく信用することはできないし、他に右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、被告の抗弁は採用の限りでない。

被告は原告に対し本件各約束手形金合計四八八、五五〇円およびこれに対する満期後の昭和二九年三月二〇日以降手形法所定の年六分の利息を支払う義務があること明らかであるので原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言については同法第一九六条を夫々適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安藤覚)

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